今日の話題は日高山脈の幌尻岳。
深田百名山にも選ばれていて、全国区で知名度が高い山ですよね。
ちょっと古い記録になりますが、2014年7月にチロロ林道から日帰りで登ってみましたので、その様子をお伝えします。
幌尻岳の概要と今回の行程
幌尻岳は日高山脈のなかで唯一、日本百名山に選定されていて、標高も2,000mを超えています。
そのため、全国から登山者が集うことでも有名。
地元の登山者よりも、道外から訪れる登山者の方が圧倒的に多い印象です。
通常、この山だけを単独で登るには、糠平川から幌尻山荘を経て登るのが一般的。
最近は、「日本百名山ひと筆書き」で一躍有名になった、田中陽希さんが登ったポロシリ山荘からのコースも人気急上昇中。
こちらのコースは長~い林道歩きがネックなので、もともとはそれほど利用者はいなかった印象です。
ただしこの林道、災害によってしばしば通行止めになるので、最新の情報確認が必要です。
外部サイト 北海道森林管理局 登山等に関する通行規制等について
いっぽうで、田中陽希さんが下山ルートに使った、北戸蔦別岳とヌカビラ岳を経由してチロロ林道へ下りるコースもあります。
私は2014年にこのルートを使って北戸蔦別岳から幌尻岳を往復、帰りに北戸蔦別岳から1967峰へも寄り道してみました。
1967峰は北日高を代表する名山ですが山名がなく、一般登山者にはほとんど縁がありません。
でも岳人の間ではよく知られた山で、北海道百名山の一つでもあります。
伏美岳、ピパイロ岳を経て1967峰まで日帰りで往復する健脚者もいますが、残念ながら2016年の台風によって林道が通行止めになっています。
そしてチロロ林道。
北側にあるチロロ林道から、幌尻岳や1967峰を日帰りする人はあまりいないようす。
そもそも伏美岳から幌尻岳まの区間のなかで、特に1967峰から北戸蔦別岳の区間は、1年に1000人、いや100人も歩いていないかもしれません。
今回、私はチロロ林道から幌尻岳と1967峰をセットでチャレンジしてみました。
当初はイドンナップ岳へ登る予定でトレーニングをしていたこともあって、体力的には準備万全で、時間さえあれば1967峰へも行けるという自信を持っていました。
でも実際には、結構苦労しましたけど。
チロロ林道から北戸蔦別岳へ登る
登山口となる二岐沢出合があるチロロ林道は、国道274号線の日高町から日勝峠方向に数キロ進んだ付近から右折します。
しばらく進むとゲートがあり、このゲートが林道の起点。
2016年の台風被害で林道や林道ゲートへ至る町道、国道274号線にも被害があったため、2017年は通行が困難な状況でしたが、2018年以降は解放されています。
林道に関する最新情報は、前出の北海道森林管理局のウェブサイト「登山等に関する通行規制について」をご参考ください。
幌尻岳に登るならやっぱり早朝から。
登山口で車中泊をしてもいいのですが、最寄りの道の駅「樹海ロード日高」が便利。
トイレや自販機、コンビニも利用できます。
前日18時に退勤したのち、21時に道の駅「樹海ロード日高」に到着。
約5時間ほど仮眠を取って、朝2時20分に出発しました。
チロロ林道は、例年6月から10月くらいの間、ゲートが解放されています。
10月以降の狩猟シーズンに入るとゲートが閉まりますし、雪も降ります。
無雪期の登山は7月~9月中旬に限定されると言っていいでしょう。
林道を走ること約30分~40分程度。
二岐沢出合に駐車スペースがあり、ここからさらに二岐沢沿いに取水ダムまで林道が続いています。
この林道を3kmほど歩くと北戸蔦別岳の登山口。
登山口でヘッドライトが要らなくなるくらい、空が明るくなるのが理想的。
太陽が出ている時間を最大限に使いたいですよね。
登山口には北海道電力の取水ダムがあり、クルマが転回できるくらいの広場があります。
ここで最終的な準備をして出発。
林道歩きでウォーミングアップが終わっているので、足取りは軽く、ヌカビラ岳を目指します。
しばらくは河畔林の中や、渡渉を繰り返しながらの河原歩き。
渡渉点はほとんどなく、トレランシューズでも靴を濡らすことなく歩けます。
ピンクのマーキングもたくさんぶら下がっているので、空が明るければ迷うことはないでしょう。
ただ「尾根への取り付き地点が見つけずらい」という意見が多く見受けられます。
事前にポイントを抑えて予習をしておきたいですね。
北海道には夏山ガイドという全6巻のシリーズがあって、第4巻の日高山脈の山々に詳しく紹介されています。
尾根に取り付いたら、いよいよ日高らしい急登の始まり。
きっとワクワク感が止まりませんよ。
登りを楽しみながら(苦しみながら?)登り続けると、トッタの泉が途中にあります。
一度稜線まで上がってしまうと、七つ沼カールに下りないかぎり水は取れません。
事実上の最終水場がここになります。
念のために満水にしておきましょう。
私の経験上の話になりますが、日帰り行程で水を4リットル以上持ったことはほとんどありません。
しかし多くの場合、沢や雪渓で補充したり飲んだりしているので、もっと多くの水を消費していることもあります。
2017年の知床連山の日帰り往復縦走では、4リットル以上は間違いなく消費しました。
知床連山|7月に木下小屋から知床硫黄山までの縦走を日帰りで往復できるかやってみた
私にとって4リットルという量はほぼ固定の数値で、増減0.5リットルくらいというのが普通。
ただ、これは装備の総重量とのバランスや気温、直射日光の当たり方も大きく影響します。
登山は行動時間と速度で消化する距離が大きく変わるので、自分の登山経験に対して検証を繰り返して、適切な数値を求める必要があります。
さらにグングン標高を上げて後ろを振り返ると、チロロ岳西峰とチロロ岳本峰が見えます。
遥か彼方に芦別岳や夕張岳が雲海に浮かび、早朝に登る山の魅力を感じることができるでしょう。
植生もハイマツが増えてきて、ところどころにお花が咲いているのを見かけるようになると、いよいよ稜線が近くなります。
こうして見るチロロ岳は本当に素晴らしい!
登山者の多くは道内在住者でしょうが、道外の方にも親しんでもらえるといいですね。
雲海に浮かんで見えるのは、夕張岳と芦別岳ですね。
稜線に出てヌカビラ岳のちょっと手前まで来ると、正面に大きな幌尻岳が姿を現します。
その名の通り、本当に大きな山だと思えます。
2017年にイドンナップ岳に登った際、反対から見てみましたが、ちょっと見方が変わります。
稜線に出てから、北戸蔦別岳までは30分もかからない距離。
でもあまりにも幌尻岳が美しく、登山道の周囲に広がるお花畑に魅了されるため、なかなか前に進みません。
今回のルートのなかで、最もお花が多くて気持ちよく歩けた稜線が、このヌカビラ岳から北戸蔦別岳の区間。
お花畑と景色を楽しむだけならば、北戸蔦別岳のみに登るだけも十分価値あり!
北戸蔦別岳の手前には、やや大きめのテントが張られていました。
景色は北戸蔦別岳の山頂のほうが良いのですが、風が防げて安全なのはここでしょう。
北戸蔦別岳から北日高全体の景色を楽しもう!
北戸蔦別岳に到着したのは午前7時。
登山口から3時間くらいのペースです。
先ほどのテントの他に、ピークに2張。
北戸蔦別岳の山頂は、ちょうど縦走路の分岐点になっています。
ほとんどの人は戸蔦別岳を経て幌尻岳へ行くと思います。
1967峰と奥にピパイロ岳が見えますね。
ちょっと前に歩いてきたヌカビラ岳からの稜線。
ほぼずっと両脇にお花畑が広がっています。
戸蔦別岳側にも1張のテント、最高の景色ですよね。
次は幌尻岳の手前、まずは戸蔦別岳へ向かいます。
岩場が多く、ハイマツもあるので、慎重に。
チングルマやツガザクラなど、たくさんのお花たちに囲まれて、本当に幸せ。
戸蔦別岳から七つ沼カールを見下ろしながら幌尻岳へ
北戸蔦別岳から戸蔦別岳へと向かう途中にちょっと後ろを振り返ってみます。
台形状の北戸蔦別岳の稜線、奥には頭一つ突き出た1967峰、再び台形状のピパイロ岳へと続く稜線がハッキリと見えます。
北戸蔦別岳から戸蔦別岳までの区間は、わりと起伏がありますが、足元は比較的歩きやすくお花がたくさん咲いています。
ピラミダルな戸蔦別岳からは、いよいよ七つ沼カールを見下ろしながら幌尻岳へ。
遠くにひと際高いエサオマントツタベツ岳が屹立し、中日高へと続く稜線も見渡せます。
幌尻岳への登りから振り返る七つ沼カールも、戸蔦別岳とセットで画になります。
なお、七つ沼カールへ下りるのであれば、戸蔦別岳側からのカールバンドは急峻なので、幌尻岳側から下りるほうが安全だと思います。
途中に分岐点がありますが、こちらは幌尻山荘から六ノ沢出合を経て戸蔦別岳へ登るコース。
標高点・1881付近です。
戸蔦別岳への急登をちょっと頑張れば、ちょっと広めの山頂。
ここから見る幌尻岳の北カール、七つ沼カールは圧巻。
懐に抱かれる美しい七つ沼カール。
幌尻岳が名山である所以の一つ。
中日高の山々。
中央にはひと際高いカムイエクウチカウシ山。
その右に1839峰、左にはコイカクシュサツナイ岳。
後ろを振り返ると1967峰。
この数時間後に登りますよ~。
ピパイロ岳から見ると左右均等に見えますが、幌尻岳の方からだと、またちょっと違う印象を受けますよね。
戸蔦別岳から幌尻岳へ登るには、一度大きく標高を下げなくてはなりません。
その途中、左手にはずっと七つ沼カールを見下ろすことができます。
テントが一張見えますが、ここは最高のロケーション。
ヒグマも好きそうな場所なので、見かけることができるかもしれませんよ。
遠くに見える残雪を抱えた山は、エサオマントツタベツ岳。
再び登りに差し掛かる付近から、七つ沼カールへ下りることができます。
戸蔦別岳側からカールに下りると傾斜が急なので、幌尻岳側から下りる方が安全そうですね。
幌尻岳への登りがだんだん厳しくなってきます。
後ろを振り返ると、戸蔦別岳と七つ沼カールの素晴らしい景観。
初めての幌尻岳山頂へ
お花畑に囲まれた登山道、何度も裏切られるニセピーク、そしてやっと幌尻岳の山頂へ。
このルートで登ると、結構なボリュームがあるんですよ。
でも景色が最高です。
登山口となる二岐沢出合から約6時間40分、北戸蔦別岳から約3時間、戸蔦別岳から2時間を要しました。
特に戸蔦別岳からがツラかった!
山頂は、さすがに日本百名山というだけあって、ざっと30人くらいの登山者で大賑わい。
日高山脈のなかでは、完全にイレギュラーな山頂。
ガイドツアーの団体さんもいて、道外から来られた方もたくさんいる様子。
ここまで来ていただいたことに、北海道民としてとても嬉しく思いますし、ガイドさん達にも感謝。
ナメワッカ岳やイドンナップ岳の稜線を見ながら、一人だけこっそりビールで乾杯する私。
ほろ酔い気分で次は1967峰を目指します。
幌尻岳から北戸蔦別岳を経て1967峰へ行けるか!?
ここからはちょっとコアな内容になりますので、幌尻岳のみに興味がある方は、スルーしてくださいね。
幌尻岳から戸蔦別岳を登り返し、さらに北戸蔦別岳まで戻るのに約3時間近くかかりました。
酔いが回っているからではありません。
単純に疲れているのです。
時刻はすでに13時。
西側の稜線はすっかりガスがかかってしまいましたが、東側の1967峰方面は視界良好。
予定通り1967峰を目指すことに。
なぜ今回ツラい思いをしてまで1967峰を目指すのか、その理由があります。
- 1967峰には過去2回、ピパイロ側から登っている
- ちょうど今、最高の天気の中で北戸蔦別岳から幌尻岳までの稜線を歩いた
つまりここで下山をしてしまえば、次回再訪するための理由が少なくなるわけです。
とは言っても北戸蔦別岳の肩(標高点・1,901)へは、いきなりハイマツのジャングルに変化します。
前進速度が一気に落ちるんですよね。
それでも、北戸蔦別岳から1967峰まで、1時間45分を予定してスタート。
北戸蔦別岳の肩から、次の標高点・1,856まではいったん高度を下げます。
このコル付近までがハイマツと低灌木がうるさいところ。
コルまで下りると、一部にはお花畑が広がっています。
地図上の標高点・1856と標高点・1904の中間付近から後ろを振り返ると、幌尻岳がずいぶんと遠くなりました。
この辺からはトツタベツカールがきれいに見えますね。
ここから先はハイマツが少ない岩稜帯。
かなり歩きやすくなりますね。
標高点が付いている小ピークには、たいていテン場があるので、ビバーグすることができます。
でもニーズはほとんどないでしょう。
伏美岳から幌尻岳への往復縦走を1泊2日とか2泊3日で行う場合に、アタック日のベースキャンプになるくらい。
南西側の稜線から1967峰への最後の登り。
高度感があり、両端が切れ落ちている箇所があるので慎重に。
予定より15分くらい遅くなりましたが、何とか15時前に1967峰へ到着。
ここまでの行動時間はおよそ12時間です。
急げ!日が暮れる前に北戸蔦別岳、ヌカビラ岳、そして下山
帰りは北戸蔦別岳の肩まで、ハイマツ帯の登り返しがあります。
同じくらいの行動時間を見積もり、17時を目標に北戸蔦別岳を目指します。
かなりガスがかかってきましたが、北戸蔦別岳まで帰れば、あとは暗くなっても大丈夫。
途中には、広めのテン場がありますが、すべて無人。
この区間では誰ともスライドしませんでした。
7月の土曜日ですよ。
北戸蔦別岳の肩への登りがやっぱり厳しいところ。
やはり、ハイマツとは仲良くなれそうにないですね。
2019年の秋に、北大雪のアンギラスに行きましたが、あそこもブッシュに泣かされました。
予定通り17時に北戸蔦別岳へ帰ることができて一安心。
辺りはだんだん薄暗くなってきて、途中でヘッドライトを装着。
沢まで下りたのが19時でした。
登山口となる取水ダムに到着したのが20時頃。
あとは歩いてチロロ林道までトボトボ下りるだけです。
日照時間が長いこの時期を、フルに楽しむことができて大満足。
その後、2016年の台風の影響でどのように変化しているかは未知ですが、幌尻岳を満喫できるコースなのはお分かりいただけましたよね。