今日の話題はイドンナップ岳。
日帰りを想定した北海道の夏山としては、最も困難な山の1つとして知られていますよね。
年々道が荒廃しているとの情報が多いため、計画段階から不安が多い山旅となりました。
そんなイドンナップ岳に、2017年5月31日に登ってみましたので、その様子を共有します。
出発前に、イドンナップ岳が敬遠される理由について考えてみる
この山が敬遠される最大の理由は4つ。
- 登山口から新冠富士までの距離がとにかく長い
- 変化の乏しい笹だらけの尾根歩き
- 新冠富士からイドンナップ最高点までの藪漕ぎが酷い
- 水場が無く、すべて担ぎ上げなければならない
もうこれしかないのかと。
こうやって事前に問題点を整理しておくと、解決方法がわかってきます。
ビジネスと一緒です。
で、いろいろ考えて結論を出してみると、
「そんな苦行みたいな山歩きなんて、わざわざやる必要なんてない」
という元も子もないような冷静な結果になってしまいました。
それでもそこは趣味の世界。
例え道理にかなっていなくても、やりたいことはすぐにやる。
そんな衝動にかられたオッサン2名が、有給休暇まで取得してパーティを組んだお話です。
これを読んでいるあなただって、きっとそんな方ですよね?
新冠市内から1時間40分くらいかかって登山口へ
前日の2017年5月30日、18時に退勤してすぐにレンタカーを借りに行き、20時に就寝。
4時間だけ眠って、深夜0時半に札幌の自宅を出発です。
最近は車中泊をせず、なるべく自宅で寝てから出発するようにしている私。
今回一緒に登る、山歩きの師匠は先に行って車中泊をしているとのことで、早朝3時に新冠市内で待ち合わせをします。
私はこの山行に向けて、5月に入ってから群別岳や中山峠~喜茂別岳~中岳~無意根山など残雪期のロングコースを歩き、前週は穂別坊主山で夏山ハイク、2日前には韓国大邱からバスに乗って伽倻山にも登って来たばかり。
なので身体はまずまずの仕上がり。
朝3時。
真っ暗な新冠の道の駅で10数年ぶりに再会して盛り上がり、私のレンタカー1台に乗って出発。
イドンナップ岳の登山口まで、1時間40分くらいかかってやっと到着。
この山旅は2013年くらいから実行が延び延びになっていた計画で、久しぶりの再会に話が盛り上がります。
ちなみに、林道は決して良好とは言えないような路面状況。
せっかく道がフラットで走りやすいはずなのに、穴ボコが多いために蛇行や減速の繰り返し。
運転に時間がかかったため、予定より1時間くらい遅れて、4時40分に登山口に到着。
ササッと準備をして出発します。
入林届のボックスがありますが、中身は空っぽです。
いずれにせよ入林届の管轄は警察ではないので、別途登山届を出しておくのがいいでしょう。
まずは売山コルを目指してグングン登る
歩き始めて間もなく、サツナイ沢の林道区間に3回渡渉点がありますが、深さはほとんどありません。
それでも飛び石で渡れそうなところがほとんどないので、全く水に濡れずに渡るのは難しいと思います。
足回りに関しては最後まで悩んだのですが、結局は冬用の登山靴。
かなり重たくて足首が曲がりませんが、ゴアテックスなので濡れずに済みます。
上部では残雪も多いので、キックステップが使えて安全。
いつものトレランシューズだったら苦労していたでしょう。
サツナイ沢を離れて小沢を詰めたところから、右側の斜面に取り付きます。
荒廃が進んでいますが、ピンクテープがぶら下がり、はじめは道が明瞭なので迷うことはないでしょう。
ここから売山コルまでの間が最も急な登り区間になりますが、意外とお花が多くて楽しませてくれます。
鹿道が発達してしるので迷いそうなポイントがいくつかありますが、GPSと地形を見ながら売山コルまで1時間20分で到着しました。
ちなみに、気温が低いのにすでにかなり汗をかいています。
水分を4リットル持参していますが、売山コルですでに500㏄消費。
真夏であれば、6リットルくらいは消費するかもしれません。
売山コルから笹、ダニ、笹、ダニ、笹、ダニ…
売山コルを過ぎると、急激に笹の藪漕ぎが濃厚になります。
一見、ここで道が終わっているのかと疑いたくなりますが、吊り尾根上には明瞭な道があります。
ただし、昨今刈り払われた形跡はなく、完全に覆いかぶさっている感じです。
笹を両手で掻き分けながら、第1岩場、第2岩場と進んでいきます。
休憩できるような心地良い場所がなく、仕方なく登山道上でザックを降ろして一休み入れることに。
見ると至る所にマダニがいます。
咬まれないように祈りながら、最後までお付き合いするしかありません。
結局は今回も脇の下を咬まれましたが。
それともう一つ。
笹を掻き分けると、空気中に粉状のものが舞い上がります。
私はアレルギー体質なので、花粉や黄砂など春先はかなり苦しみますが、これも同じ症状。
涙ボロボロ、鼻水ダラダラ、くしゃみは止まらない。
しかも手袋と両袖の隙間や首筋に笹が擦れて、赤く腫れてしまいます。
朝露に濡れながら登るよりもいいのでしょうが、これもかなり厳しいところ。
新冠富士が見え始めたら・1404が近い
第2の岩場を越えてから尾根に忠実に登っていき、登り詰めたあたりが標高1,220m付近。
ここで大きく進行方向を変えます。
この辺りから新冠富士が見え始め、笹が少なくなるのが救い。
でも、それも束の間の出来事。
まもなく再び笹が生い茂り、嫌気がさしながらも、トラバース気味で標高点・1404の基部を目指します。
笹の根の付近を踏みながらのトラバースなので滑りやすく、行程中最も歩きずらい区間の1つです。
結局のところ、笹藪とマダニに尽きるわけです。
北海道の山と谷2ですら「廃道」「経験者向け」と書かれているくらいですからね。
雪を繋いで新冠富士の山頂へ
私たちが本当に運が良かったのは、標高点・1404の基部から雪が繋がっていたこと。
やっと藪漕ぎから解放されたことです。
進行方向の右後方には、クリオネの形をした新冠湖を望むことができます。
ここまで4時間以上行動し続けて、やっと画になる景色に出会えたなんて!
イドンナップはとにかく我慢の連続です。
目指す新冠富士までは、まだまだ時間がかかりそうな感じに見えますが、雪が繋がっていることが救い。
尾根も広いので、安全に山頂に立てそうです。
尾根の途中から見え始める幌尻岳。
5時間かかって登頂した新冠富士の山頂
最後はハイマツのトンネルを抜けると、新冠富士の山頂。
私たちの歩くペースは決して遅くないほうだと思いますが、それでも登山口からおよそ5時間かかりました。
なかなかハードな行程でしたが感無量。
このあとの主稜線から振り返って眺めてみると、実にきれいな山容をしています。
富士という名の由来ですが、きっと里から見上げて富士に見えるからなのでしょう。
でも、稜線上で眺めたときも端正で美しい山だと感じます。
さらに雪を繋いで最高点を目指す
新冠富士から最高点までの稜線は、左右どちらかに雪が残っていることが多く、よほど急な斜面でなければ一気に駆け抜けられました。
「天空の回廊だ!」との一言に思わず納得。
夏道は稜線上にほぼ忠実にトレースされています。
雪が途切れてもすぐに夏道に復帰することができるので藪漕ぎはなし。
稜線上には、小さな起伏がいくつかあります。
何度か越えていくとますは三角点。
そろそろ到達する時間だと思い、GPSのログを見てみると、すでに通り過ぎていました
そのため、最初にイドンナップの最高峰へ到達し、帰りに三角点を確認するという変則的な山旅になりました。
4年越しで到達できたイドンナップの最高点
残雪のおかげで、新冠富士から最高点までは1時間程度で到達。
通常、2時間くらいかかる行程を大幅に圧縮出来て、心に余裕が生まれました。
手の届くところに見えるピラミダルな山が、憧れのナメワッカ岳かと興奮したけれど、標高点・1776であると判明。
手前が標高点・1722で、どちらも雪さえ途切れなければ、日帰りできる感じです。
帰りはGPSを慎重に見ながら進み、笹に埋もれた三角点の頭を見つけることもできました。
新冠富士までは行きと同じくらいの時間で到着。
一部にキバナシャクナゲが咲いている新冠富士の山頂でお昼休み。
幌尻岳もこれで見納め。
13時に下山開始です。
標高点1404の基部まで一気に下る!
全てにおいて名残惜しいところですが、明日は普通にお仕事。
できる限り早く帰って後片づけをしてしまいたい、というお互いの暗黙の了解で、一気に下り始めます。
BCスキーに慣れているため、雪の斜面での下りは本当に早い!
油断をしていると見失ってしまうくらい離されます。
雪が途切れる・1404の基部へは本当にあっという間に到着。
でもここからが長い!
笹とダニとアレルゲン地帯へ再び突入
再びダニと笹しかない尾根を、くしゃみとあふれ出る鼻水に苦しみながら黙々と歩き続けます。
たまに現れる行者ニンニクやお花畑に励まされながら、売山コルに到着したときはかなりの安堵感。
やっと肩の荷が下りた感じ。
売山コルからは歩きやすい作業道で、16時40分に下山完了。
11時間50分の長旅。
林道のど真ん中でオッサン2人が全裸になって、お互いにマダニのチェック。
おかげで脇の下に食い込んでいたダニを発見。
クリームを塗って窒息死させて取り除きました。
この道を切り開いた新冠山岳会さんに敬意を表すとともに、現在お世話していただいている「新冠ポロシリ山岳会」の皆様にも謝意を表したいと思います。