札幌市の西側に位置する無意根山や余市岳。夏山ハイクで人気の山々ですが、どちらかと言うと雪がある時期のほうがリピーターが多いようです。真っ白に輝く大斜面は、札幌市の近郊の中でひと際魅力的な存在だと思います。
この記事では無意根山を残雪期に楽しむことを目的に、
- 中山峠から夏道に準じて喜茂別岳を経て無意根山へ至る
- 足回りはツボ足の軽装で往復25kmを日帰りする
ことをテーマにして具体的な状況をご紹介していきます。
通常、無意根山は千尺高地方向から登られるのが一般的ですが、それでもロングコースになり相応の体力が必要になります。ましてや中山峠から喜茂別岳を経て並河岳と中岳を繋いで登るとなると、かなり長時間を要することは明らかです。しかし、喜茂別岳から無意根山までの稜線は開放的で美しく、羊蹄山や尻別岳、ニセコ連山を眺めながら初夏の訪れを感じて歩くことは最高の気分にさせてくれます。
登り返しが何度かあるので、余力を残しておかないと、辛い帰り道になるでしょうが、急登がなく大きな標高差がないのがいいところです。また、途中の並河岳や中岳で引き返しても十分に楽しめますので、スケジュールを柔軟に変えることもできます。
では、残雪期終盤の無意根山へ行ってみましょう!
行程が長いので、空が明るくなり始めたら中山峠を出発
ゴールデンウィーク空け最初の日曜日を想定してお話していきますが、5月10日前後の日の出時刻は4時15分くらいなので、薄明が始まる3時くらいから行動を開始したいところです。しかし、中山峠付近は西側に開けている地形なので、実際には3時30分くらいだとまだ暗くて夜といった感じです。
中山峠は標高が800m以上ありますので、明け方はとても冷え込みます。自販機で温かい飲み物を飲んでトイレを済ませて出発しましょう。
お昼の風景はこのような感じ。反対車線には道の駅があります。
NTT中山峠無線中継所と書かれた案内版があるゲートから林道を進みます。
最初の林道歩きは初めから雪が繋がっていて、ほぼ平坦地形なのでNTTの電波塔まで約50分くらいで到着できるでしょう。これは夏道の標準的なコースタイムと同じくらい。ただ、早朝は雪が締まっていてツボ足でも歩きやすいのですが、日が昇ると雪が腐って沈み気味になるので、もう少し時間がかかるかもしれません。登山開始後の早い時期から喜茂別岳から無意根山までの稜線を眺めることができます。
送電線を越えてしばらくすると、NTTの中継施設に到着します。この施設を捲くようにして進路を変え、平坦な林内へと進んで行きます。
地理院地図「地理院タイル」を加工して引用
NTTの電波塔からは広い尾根を進んで行きます。雪道のコース取りは各自の好みもありますが、ここでは夏道に準じています。
最初は木々が多い尾根ですが、だんだんと気がまばらになってきたり、広く開豁する箇所があったりします。目指す方角をしっかり押さえて、ガスがかかっても大丈夫なようにマーキングもしながら進みましょう。
私が取材した日もこのようにガスがかかり始め、喜茂別岳山頂までほとんど晴れませんでした。早朝は注意が必要です。
ご覧のように、喜茂別岳の山頂台地も傾斜が緩やかで広い地形になっています。笹の植生がまとまった地域が点在していますが、山頂まではひたすら直進すれば大丈夫。南北どちらかに行き過ぎると傾斜が急になるので、視界が悪くても誤りに気付きます。
帰路に同じ場所から撮影した様子。視界があるというのは本当にいいものですね。
山頂は笹や囲まれたところにあるため、適度に風よけになり休憩にちょうどいいですね。残雪期はラッセルが無いので、夏のコースタイムとほぼ同じくらいで登ることができるでしょう。行動を止めると身体が急激に冷えるので、水分補給と防寒はしっかりと。
喜茂別岳から並河岳を目指して
ガスが晴れていく瞬間の札幌岳から烏帽子岳への山並み。目線でガスが晴れていく瞬間は雲海に浮かぶ山々を見るより感動的ですね。
ガスが晴れて隣の並河岳が姿を現す瞬間。植生がほとんどありません。
ガスが完全に晴れるとこのような眺め。無意根山までかなり遠いように見えます。
こちらは羊蹄山とニセコ連山。5月初旬の羊蹄山はまだまだ中腹まで真っ白なので、スキーを楽しめそうですね。
喜茂別岳から稜線上のピークを繋いで無意根山へ至る
喜茂別岳からは北側の並河岳方向へ下っていきます。真っ白に輝く雪原をほぼ一直線に並河岳を目指します。
標高点・1258、通称「並河岳」のピークはハイマツに覆われており、特にこれと言って何もありませんが、ここから見渡す景色は喜茂別岳よりも素晴らしいと思います。こちらは羊蹄山と尻別岳。
こちらは定山渓天狗山です。
そしてこちらは中岳と無意根山。この景色は雪のある時期にしか見ることができないですね。並河岳と喜茂別岳の間は、ツボ足なら往路も復路もそれぞれ1時間程度で大丈夫。もちろんラッセルの無い時期の話ですよ。
並河岳から次の中岳までの稜線はちょっと湾曲気味。標高点・1225から地形図の稜線よりさらに東側を捲くようにしてハイマツをかわしながら進んで行きます。直線的にはいきませんが、特徴ある中岳の岩場を目指しましょう。
並河岳から中岳へは地形図では約100m下りることになり、帰りの登り返しが気がかりですね。この区間も50分くらいかかって山頂直下へ到着。見た通り、正面の大きな岩の上が山頂で、その背後には大きなハイマツ帯が広がっています。
岩場を無理に登ろうとせず自然にハイマツ帯に上がり、ハイマツを踏みながら戻ってくるような感じで山頂に立った方が安全だと思います。
山頂からは、次に向かう無意根山を間近に見ることができます。遠くに余市岳と白井岳。いつかは繋げてみたい稜線です。
中岳も並河岳同様に山頂標識はありませんし三角点は雪の中。一部が開豁していて石が少しだけ積まれているだけのシンプルな山頂です。
中岳から無意根山までの区間は再び100mくらい高度を下げますが、あまりにも緩斜面なのでそれを感じさせません。しかし最低点から見上げる無意根山は意外と高く、実際に標高差が200mほどあります。西側一帯の緩斜面はハイマツに覆われており、東側は急傾斜になっているので、ハイマツ帯の際を行くようにキックステップで慎重に山頂を目指します。
肩に到着するとケルンがあり、北海道大学山岳スキー部の慰霊碑となっています。羊蹄山や尻別岳が一望できるこちら側に慰霊碑があるところに、遺族や後輩諸氏の想いを感じます。ここまで中山峠から6時間くらいをみておきたいですね。
新しい山頂は、三角点がある旧山頂より約4mほど高く200mほど北側に離れています。東側に雪庇が発達するので近寄らないようにしましょう。
まだまだ真っ白な余市岳。無意根山より30mほど標高が高い札幌市の最高峰。夏も冬もキロロスキーワールドから登るのが一般的。
帰路も再び長丁場になりますが、中岳や並河岳のピークをうまくかわして歩いて行けば1時間半くらいで喜茂別岳まで戻ることができます。さらに喜茂別岳から2時間程度で中山峠へ。約25kmの行程ですが、全体的に傾斜が緩やかで直線的に歩くことができ、眺めも良いので心地良い残雪期ハイキングが楽しめます。体力や天候に合わせて柔軟なスケジュールを立てられるのもこのコースの魅力です。
※この記事は2017年5月9日の山行をもとに作成しました。