2016年に相次いだ台風被害で、東大雪地域の登山が困難な状況になっていましたが、いくつかの山々は旧登山道の復活や、林道の迂回などにより登山道へアクセスできるようになりました。2018年6月現在、
- 石狩岳、音更山、ユニ石狩岳へはシュナイダーコースを含めて2コース
- ニペソツ山へは幌加温泉コース
これらから山頂へ登ることが可能です。石狩岳やニペソツ山は全国区で知名度も高く、人気の山なので喜ばしいところ。あとは、ウペペサンケ山と西クマネシリ岳へのアクセスが望まれるところです。
ウペペサンケ山は、日本三百名山からも除外されている山ですが、昔から美しいことでよく知られた山容なので、多くの登山者が林道の復旧を待ち望んでいることでしょう。
この記事では、2018年6月23日に訪れてみた様子をもとに、
- 糠平温泉から登山道までの林道の被災状況、および修繕の進捗状況
- 登山道の整備状況、および荒廃の状況
- ウペペサンケ山を日帰りのためのナイトハイク
これらについてお伝えします。どうぞ最後までお付き合いくださいませ。
※なお、状況により変化する可能性がありますので、最新情報をご確認ください。
※追記 2018年7月2日~3日頃、前線の影響により上士幌町糠平で多量の雨が降り、洪水警報も発令されました。状況が変わっている可能性があります。
糠平温泉からウペペサンケ山登山道までの林道の被災状況、および修繕の進捗状況
ウペペサンケ山の登山道は、菅野温泉側から2コース、糠平温泉側から1コースがあります。菅野温泉側の2コースは、すでに5年以上林道の修復が進んでいないため、今後も復旧の見込みは低いかもしれません。
今回訪れた糠平温泉側のコースは、国道から登山口まで林道を約7.3kmの道のりがありますが、今現在どこまで復旧が進んでいて、車両でどこまで入れるかがみなさんの関心どころかと思います。
上のキャプチャ画像は、北海道森林管理局で公開している被災状況を表わしたもので、引用させていただいております。この地図では被災地点が×印でプロットされていますが、歩行もできないレベルなのかどうかが掴めないので、実際に現地を訪れてみることにしましょう。
出典:国土地理院「地理院タイル」のデータを一部修正して使用
こちらは、国土地理院の2万5千図ですが、林道を進んで約1.7kmのところに上士幌町の糠平地区簡易水道施設があります。今回訪れてみた結果、そこまでは道路が補修されていました。修繕は平成30年1月となっていますので、今年に入って雪解けとともに通行できるようになったものと考えられます。
簡易浄水場から先は、林道崩壊のため通行止めと書かれていますが、ゲートはありませんので、さらに数百メートル先の倒木で塞がれている箇所まで車を進めることができます。転回して道路脇に駐車することなどを考えると、簡易水道施設に停めさせてもらうほうが良いかと思います。
さて、ここから林道歩きの始まり。東大雪はヒグマと遭遇する可能性があるので、特に林道歩きには要注意です。
登山口までは全般的に緩やかな登り基調で、標高900m地点まで約200mほど稼ぎます。軽装なら軽く走ることもできる感じ。完全徒歩でも1時間30分から2時間をみておけば十分でしょう。
道路自体に関しては小さな被災箇所がいくつかありますが、徒歩ではそれほど問題がないレベルです。それよりも倒木箇所が多いので、手こずるところ。大きなザックを背負った男性なら潜(くぐ)るのが大変ですし、小柄な女性なら跨(また)ぐのが大変です。
しかも木の倒れ方が完全に道を塞ぐ形で意地悪なので、障害物以外の何物でもありません。
しばらくすると、林道の屈曲部が沢の増水で流されている箇所があります。被害が大きい箇所は全部で3箇所あるのですが、そのうちの1箇所に関しては、上部で水流が林道に流れ込んだ結果として、下部でも決壊したように見受けられました。
これらの箇所は渡渉が必要になるので、雨が降り続いたあとは止めた方がいいでしょう。
こういった箇所もありますが、ニペソツ山の16の沢林道や、岩間温泉への林道の被災状況と比較すると、程度は軽い方だと思います。その理由として、
- 林道と川が並行しており、かつ接近する箇所での被害がほとんどない
- 林道に水が大量に流れ込んだ箇所が少ないため、土砂の流入がほとんどない
- 川の規模が比較的小さい
ことが挙げられるのではないかと考えます。とは言え、復旧にはまだまだ時間を要するものと思われます。
登山道の整備状況、および荒廃の状況
さて、1時間半ほどかけて登山口周辺まで進みました。このあと、林道がさらに奥まで続いているのですが、台風被害に見舞われた平成28年よりも、かなり以前からすでに不通になっており、道路は塞がれています。
本来駐車スペースだった広場も、やや荒れ気味です。
平成28年以前から、旧登山口へアクセスできないように、新登山道が新しく付け替えられていたのですが、ここもすぐ隣りに崩壊箇所があります。
上の画像のように、左側の崩壊している×印の方へと登って行くと、道をロストしてしまいます。私は深夜に登ったので、右側の正規の道に気付かず左側の崩壊箇所を登ってしまい、暗くてしばらく迷いました。
ちなみに2万5千図では、さらに先に登山道が描かれていますので、GPSの表示も点線からズレて現在地が表示されます。
入林者名簿は十勝西部森林管理署東大雪支署で管理しているものですが、左上に平成28年度と書かれているので、しばらく更新されていないようです。
サラッと見た限りでは、今月に入ってからの記入は6月2日、7日、18日で4組合計5名。ということで、実際にはこれよりも多くの方が登っているものと推測されます。
稜線に出るまでの登山道は、全般的に荒廃が進んでいるという点は否めません。
笹が覆いかぶさるくらいにまで伸びており、足元が見えない箇所もかなりあります。倒木もかなり多く、よく見ないと踏み後を見失うこともしばしば。藪漕ぎをして迂回しなくてはならないような箇所もあります。
まず、標高950m付近で地図には描かれていない古い作業道に出た後、しばらく作業道を歩きます。その後、本格的な登山道へ入ります。
上の画像では直進すると旧登山道へ下りていく道になりますが、ロープが張られていた形跡があり、進入防止の処置がとられていることがわかります。
最近、私はこうして情報をお伝えする活動をするだけではなく、傷んだ箇所を自主的に修復する活動も大切だと思い始めています。
例えば、
- (行政や関係団体が)ピンクのテープで表示した箇所を新しく付け替える
- 倒れてしまったロープの杭を立て直す
- 倒木の一部を処理する
- 伸びた笹を刈る
といったような活動は、他の登山者を助けるだけではなく、予算や人出が不足していると思われる自治体の活動を手助けできるのではないか、と考えます。廃道になる登山道があるということは、維持できない理由がそこにあるわけで、ほとんどの場合は自然保護や自然に返す目的で整備を打ち切るわけではないでしょう。
国境稜線上のハイマツを処理するような話ではなく、一般登山者向けの登山道に関してはこうした自主的な活動も必要かと思っています。
話が逸れましたが、作業道跡と登山道との合流箇所は、地図上でこの付近です。
下部の登山道は、一部で倒木や笹に覆われて不明瞭な箇所があるものの、何とか最終水場まで来ることができました。最終水場の看板が設置された木も倒れていますが、冷たい水はしっかりと取ることができます。
林道歩きまでの行程を含めると、全行程の中間地点くらいになる場所なので、真夏のこの水場はかなり重宝するのではないかと思います。
本当に倒木箇所が多いのですが、捲き道となる踏み後も未発達なので、周囲をよく見ながら登っていきます。跨いだり潜ったりする必要がある箇所はありません。
標高1,100m付近で平坦地に出ますが、ここから稜線上の標高点・1399までは、急な尾根を登っていきます。ここでも数箇所で倒木に悩まされます。
こんなのとか。
こんなのも。私の経験上の話で恐縮ですが、これほど未処理の倒木が多い登山道は、お目にかかったことがありません。
標高点・1399まで出ると、景色も広がって爽やかな稜線歩きとなりそうなところなのですが、実際には標高1,610mのピーク手前まで深い笹藪に悩まされます。いったんコルまで下りて、そこから急登に差し掛かります。
早朝の場合、朝露で身体がずぶ濡れになることも想定しておきたいところ。衣服や靴、手袋が濡れて、その後の稜線上で冷たい風に吹かれるとかなり消耗してしまいます。
ハイマツ帯に出ると気持ちの良い稜線歩きとなり、通称「糠平富士」まで少しずつ高度を上げていきます。西側を見ると糠平湖が、南側を振り返ると然別湖がそれぞれ見渡せます。
岩場には少ないながらも、イワウメやコマクサが咲いていました。7月中旬くらいになると、どんなお花が咲くのか楽しみですね。
西には十勝連峰が見渡せます。富良野側からの眺めとは異なり、美瑛岳がひと際大きく見えるところがいいですよね。
そして山頂へ。東側のこの地点は、通称「糠平富士」と呼ばれています。ウペペサンケ山は東西に長く、それぞれに山頂標識があります。最高地点は西寄りにありますが、三角点は糠平富士に存在します。
この日は風が強くて糠平富士で打ち切りましたが、コンディションが良ければ西のピークまで訪れたいところですね。
然別湖と周辺の山々の眺め。標高が高い然別湖ですが、こうしてかなり高い所から見下ろすことが出来るのはウペペサンケ山だけでしょう。
糠平湖の眺め。遠くには阿寒の山々が眺められます。
こちらは人気のニペソツ山。
前天狗から間近に見るニペソツ山は誰もが感動する場面ですが、南南東のウペペサンケ山から見るニペソツ山も劣りませんよね。これを見るためだけに糠平富士まで登る価値があるでしょう。
東側に面しているので、朝陽を浴びる時間帯に雲海に浮かぶ姿が見られると最高でしょうね。この日は全貌を見せてくれました。
6月下旬ですが、山頂にはキバナシャクナゲがたくさん咲いていました。テント1張分のスペースがあり、幕営が十分可能ですが、国立公園内ということと稜線上という理由であまりおススメできませんが…
ニペソツ山の奥には表大雪、右手奥には石狩連峰が眺められます。石狩連峰へのアクセスは2017年の夏頃から徐々に出来るようになりました。以前の林道は使えませんが、北側のルートから迂回してユニ石狩岳の登山口まで、2018年からはシュナイダーコースの登山口付近までアクセスできるようになったそうです。
この日は低気圧の圏内で雲が高めですが、雲海に浮かぶ石狩連峰が見られるとステキでしょうね。
ウペペサンケ山を日帰りするためのナイトハイク
さて、ここからはちょっと余談になりますが、ナイトハイクについて書いていきます。林道の状況や登山道の荒廃が随所に見られるために推奨できませんが、10時間強を要する現状では、日帰りをするために早立ちが必須です。特に秋になれば明るい時間が日々少なくなっていきます。そのため、少なくとも日の出前には出発したいところです。
この日は水道施設に車を停めて、24時から歩き始めました。鹿が多く、ヘッドライトの光が彼らの目に反射します。彼らの間合いに入らない限り、おとなしくこちらを凝視しているだけですが、登山道が鹿に向かって伸びている場合、いきなり動き出すのでびっくりします。
林道が大規模に被災した箇所を、ヘッドライトの光を頼りに渡渉します。
明るい時間だと何てことはないような場所でも、進路に迷うこともしばしば。冷静に判断し、安全確実に進みます。
1時間30分で登山口へ。ここで誤って崩れた斜面を登るものの、登山道がこんなに流出するわけがない、と思い直して藪漕ぎした結果、夏道に出ることができました。慣れた夏山ハイキングでも、深夜ならではの難しさがあります。
旧い看板の倒木と共に倒れており、親切なはずの案内標識がかえって不安を掻き立てるという逆効果に。
稜線まで出ると夜が明け始め、ピリベツ山と西クマネシリ岳、それとクマネシリ山塊の長い稜線のシルエットも確認できます。
阿寒の山々のシルエット。阿寒富士が特徴的。
夜が刻々と明けていき、自然と一体感を感じる瞬間。
サンライズと糠平湖の眺め。平地では決して見ることが出来ない感動の日の出の瞬間。ちなみに、野営をしている箇所から日の出を見るのと、行動中に日の出がやって来るのとでは、感じ方が若干異なります。後者の方が少し安堵感を感じます。
朝陽を浴びる稜線の東斜面とウペペサンケ山。
ちょっと無理をして、深夜にスタートして良かったと感じます。
特にナイトハイクについては、ややマニアックな記事になりましたが、2018年6月現在のウペペサンケ山、糠平コースについてのご紹介でした。正直なところ、林道も登山道の状態も良くないですし、往復10時間以上は要するので推奨できませんが、計画をされている方のお役に立てれば幸いです。
※繰り返しますが、2018年7月初旬の大雨によって状況が変化している可能性があります。